歩合給の比率が高いと違法?運送業界に広まる「誤解」と真のリスク

よくある誤解

運送会社の経営者様や運行管理の方とお話ししていると、「賃金総額に占める歩合給の比率が高すぎると違法になると聞いたが本当か」というご質問をよくいただきます。

結論から申し上げますと、歩合給の比率が高いこと自体が直ちに法律違反になるわけではありません。

しかし、この誤解が広まっている背景には、歩合制を運用する上で避けて通れない「計算方法」と「手続」に関する深刻なリスクが隠されています。

今回は、歩合給制を導入している運送会社が本当に注意すべきポイントを整理します。

比率の問題ではなく「制度設計」が適正か

法律の原則に照らせば、固定給部分と歩合給部分のそれぞれの算出根拠が明確であり、労働基準法や通達に則って計算されているのであれば、その比率がどうであれ違法とはみなされません。

「歩合給が8割だからダメだ」といった形式的な基準はないのです。

ただし、歩合給の比率が高ければ高いほど、「(いわゆる振り分け方式など)特殊な計算を行って、残業代を低く抑えようとしているのではないか」と厳しい目で見られる可能性は高まります。

つまり、比率が高いことそのものが違法なのではなく、比率が高い制度ほど「設計の不備」が見つかりやすく、結果として否認されるリスクが上がるというのが正確な理解です。

最も危険な「振り分け方式」の罠

運送業界でよく見られる「最悪のパターン」は、総額ありきの給与計算です。

たとえば、これまで完全歩合給に近い形で支払っていた会社が、行政の指導を受けて「総額は変えないまま、名目だけを基本給や割増賃金(残業代)に振り分ける」という手法をとることがあります。

これは裁判になれば、支払った手当が割増賃金として認められないばかりか、歩合制そのものの有効性も否定されるという、会社にとって極めてダメージの大きい結果を招くおそれがあります。

名目だけを整えても、計算の根拠が「売上の〇%から逆算する」といった実態であれば、それは適正な賃金支払とは認められません。

「保証給」の定めを忘れていないか

歩合給制度を運用する上で、比率以上に重要なのが「保証給(最低保障)」の存在です。

労働基準法第27条では、出来高払制(歩合制)を用いる場合、労働時間に応じて一定額の賃金を保障しなければならないと定めています。

歩合給の比率が高い会社ほど、この保証給の規定が抜け落ちているケースが目立ちます。

裁判例においても、適切な保証給の定めがない歩合給制度は、その有効性自体が否定される傾向にあります。

「稼げなかったら給与が極端に少なくなる」という制度は、公序良俗に反すると判断されるリスクがあるため、就業規則への明記は必須と言えます。

正しい歩合給制の運用に向けて

歩合給制は、ドライバーのモチベーションを高める優れた仕組みですが、法的な守りが難しい制度でもあります。

「うちは昔からこのやり方だから」「周りの会社もやっているから」という理由で、不透明な計算を続けていると、一度の未払い残業代請求で経営が傾きかねません。

まずは自社の給与明細を手に取って、基本給や歩合給、そして残業代が「それぞれ独立した計算根拠」を持っているか確認してみてください。

もし「総額から逆算している」と感じる部分があれば、それは制度を見直すべきタイミングかもしれません。

最後に

貴社の賃金規程が、最新の裁判例や行政指針に耐えられるものになっているか、一度詳細に診断してみませんか?

リスクを抑えつつ、ドライバーが納得して働ける「強い賃金制度」作りを、全力でサポートいたします。

この記事を書いた人

新潟市出身。上智大学外国語学部卒業、一橋大学法科大学院修了。物流業専門の社会保険労務士。2023年に「いろり社労士事務所」を開設。トラック運送業、観光バス業、倉庫業に特化した支援を行っている。紛争を未然に防ぐ規程作りや労務管理を得意とし、単なる手続き代行に留まらない経営サポートを展開。2024年問題などの業界特有の課題に対し、経営者の良き理解者として現場に即した実務的な解決策を提案している。福岡市在住。

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