ドライバーから未払い残業代を支払うよう通知が届いたときの対処方法

始めに

運送会社がドライバーから未払い残業代を請求されるケースが急増しています。

ある日突然、内容証明郵便で届く「通知書」に動揺し、初動を誤ってしまうと、会社は取り返しのつかない不利益を被る可能性があります。

今回は、経営者がまず知っておくべき初動対応と、本当に頼れる弁護士の選び方を解説します。

相手方の期限に法的拘束力はない

通知書には多くの場合、「本書面受領後〇日以内に回答せよ」といった期限が指定されています。

しかし、あわてる必要はありません。

相手方が設定した期限は、あくまで相手の希望に過ぎず、法的な拘束力はありません。

その期限を過ぎたからといって、即座に法的なペナルティが発生するわけではないので、焦って不十分な内容で回答したり、慌てて連絡を入れたりする必要はありません。

ただし、期限を過ぎたまま放置していると訴訟などの法的手段をとられるおそれがあるため、迅速な対応が必要なことに変わりはありません。

「ただいま未払い賃金の有無を含めて調査中ですので、回答は今しばらくお待ちください」とだけ伝えて、反論のための準備を整えることをお勧めします。

安易な「債務の承認」は命取り

最も危険なのは、ドライバー本人や相手方弁護士に対し、電話などで以下のような発言をしてしまうことです。

  • 「未払いがあることは分かっています」
  • 「後で必ず支払いますから、少し待ってください」

こうした発言は法的に「債務の承認」とみなされます。

本来であれば時効成立(現在は最長3年)を主張して支払いを免れることができた分までも、「支払うと認めた」と解釈され、時効の援用ができなくなるおそれがあるのです。

正しい初動対応のステップ

通知が届いたら、速やかに以下の体制を整えてください。

社労士への相談

まずは顧問の社労士に連絡し、デジタコ、賃金台帳、就業規則などの客観的な資料を整理します。

相手の主張する労働時間が正しいか、休憩時間(手待時間)が適切に計算されているか、賃金制度に不備はないかなどを精査します。

弁護士への相談

社労士は書類作成や労務管理のプロですが、「紛争(交渉や裁判)」の代理人になれるのは弁護士だけです。

相手に弁護士がついている場合や、訴訟や労働審判に発展する可能性がある場合は、早急に弁護士を介して窓口を一本化するのが得策です。

失敗しない弁護士選びのポイント

ネット広告や事務所の規模で選ばない

検索結果の上位に表示される事務所や、弁護士が複数名所属している法律事務所が、必ずしも運送実務に詳しいわけではありません。

大規模の事務所では、担当する弁護士が若手で業界知識が乏しかったり、画一的な事務処理に終始するケースも少なくないからです。

「会社側専門」「労働問題専門」という言葉を鵜呑みにしない

ホームページに「会社側専門」と掲げていても、それだけで運送会社の残業代問題に詳しいとは限りません。

むしろ、会社側と労働者側双方の案件を取り扱っている弁護士だからこそ、攻めと守りの双方に精通していることもあります。

耳障りのいいキャッチコピーに捉われず、運送業界の独自の給与体系や運行の実態に関する知識を持つ弁護士に依頼するのが理想です。

紹介ルートを頼る

ベストな選び方は、労務問題に詳しく、経営者の苦労や現場の痛みを理解してくれる弁護士を、信頼できる詳しい人から紹介してもらうことです。

血の通った交渉ができ、かつ法的な理論でしっかりと会社を守ってくれる弁護士を見極めるには、実際にその弁護士の手腕を知る人からの紹介が最も確実です。

経営者ひとりで抱え込まない

ドライバーからの請求は、会社に対する「宣戦布告」のように感じられるかもしれませんが、正しく対応すれば、不当な請求を退け、将来の労務リスクを是正する機会にもなります。

まずは落ち着いて、専門家の門を叩いてください。

弊所では、運送業の労務問題に精通した専門家とのネットワーク構築を支援していますので、お困りの際はお気軽にご相談ください。

この記事を書いた人

新潟市出身。上智大学外国語学部卒業、一橋大学法科大学院修了。物流業専門の社会保険労務士。2023年に「いろり社労士事務所」を開設。トラック運送業、観光バス業、倉庫業に特化した支援を行っている。紛争を未然に防ぐ規程作りや労務管理を得意とし、単なる手続き代行に留まらない経営サポートを展開。2024年問題などの業界特有の課題に対し、経営者の良き理解者として現場に即した実務的な解決策を提案している。福岡市在住。

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