ドライバーが乗務できなくなったら他の業務に配転する必要があるか?

ドライバーとして雇用した従業員が運転できない状態に陥ることは、労働契約の目的そのものが失われることを意味します。

しかし、一足飛びに解雇を選択することは、労働者の生活基盤を奪う重い決断であり、法的にも解雇権の濫用として厳しく問われる可能性があります。

今回は、職種限定合意の有効性と、不測の事態における会社側の配慮義務について、実務上の指針を解説します。

職種限定合意と配置転換義務の相関関係

職種限定合意とは、特定の業務のみに従事することを約束する契約です。

この合意が明確であれば、会社は原則として本人の同意なく他部署へ異動させることはできません。

ここで重要なのは、契約書における「配転命令」の有無です。

労働契約において配転命令の可能性が明記されていれば、会社の人事権は広がります。

その反面、当初合意していた職種を履行できなくなった場合に、会社は解雇を回避するため、他の職種を割り当てるなどの雇用継続に向けた努力が強く求められることになります。

一方で、職種を厳格に限定している場合は、他職種への配置換えを検討する義務は軽減されますが、それでもなお、長年貢献してきた社員に対して一切の配慮をせず即座に解雇することは、信義則の観点からリスクを伴います。

免許停止・取消時における段階的な対応

自己の過失による免許喪失は、労働者側の責任による履行不能です。

職種限定合意があれば、会社は基本的に運転以外の仕事を与える契約上の義務は負いません。

しかし、実務上は免停の期間や、これまでの勤務態度、事故の経緯を総合的に判断する必要があります。

短期の免停であれば、有給休暇の消化や欠勤扱いとし、復帰を待つのが一般的な配慮です。

長期の免停や取消において、やむを得ず雇用を終了させる場合であっても、「会社として代替業務を検討したが、現在の組織体制では困難である」というプロセスを誠実に踏むことが、将来的な紛争を防ぐ鍵となります。

妊娠および母性保護への法的配慮

妊娠による乗務不可については、自己責任の免許喪失とは全く性質が異なります。

労働基準法第65条は、妊娠中の女性が請求した場合、会社は「他の軽易な業務」に転換させる義務を定めています。

たとえ契約で職種を限定していても同様です。

会社側に適切な軽易業務がない場合でも、可能な限り事務や点呼補助などの仕事の切り出しを検討することが求められます。

私傷病の場合

加齢や病気で運転が継続できなくなった際、職種限定合意があるからといって、即座に当然退職とするのは早計です。

裁判例では、職種限定がある場合でも、社内に配置可能な空きポストがあり、かつ本人がその業務を遂行できる能力があるならば、解雇を回避するための一定の配慮が期待されます。

会社としては、まず休職制度を利用して回復を待ち、それでも復職が困難な場合に、本人と今後のキャリアについて十分に協議を行うべきです。

合意の上で別の職種へ転換するなどの誠実な対話が、会社のリスクを最小限に抑えることにつながります。

持続可能な雇用関係を目指して

会社を守るためのリスク対策として、契約書に職種の限定について明記しておくことは重要です。

しかし、法律の運用は形式的な文言だけでなく、会社が労働者に対してどれだけ誠実な配慮を行ったかという点も重視されます。

「運転できないならすぐ解雇」という姿勢ではなく、職種限定の枠組みを維持しつつも、個々の事情に応じた段階的なステップ(休職、配置検討、協議)を踏むことが、結果として不当解雇という大きな経営リスクから会社を遠ざけることになります。

貴社の現在の労働契約や就業規則が、法的な厳格さと、労働者への配慮のバランスが取れたものになっているか、改めて点検されることをお勧めいたします。

この記事を書いた人

新潟市出身。上智大学外国語学部卒業、一橋大学法科大学院修了。物流業専門の社会保険労務士。2023年に「いろり社労士事務所」を開設。トラック運送業、観光バス業、倉庫業に特化した支援を行っている。紛争を未然に防ぐ規程作りや労務管理を得意とし、単なる手続き代行に留まらない経営サポートを展開。2024年問題などの業界特有の課題に対し、経営者の良き理解者として現場に即した実務的な解決策を提案している。福岡市在住。

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