カスハラ(カスタマーハラスメント)対策の義務化と運送業における対応

2026年、労働施策総合推進法(パワハラ防止法)の改正により、企業にはカスハラ(カスタマーハラスメント)から従業員を守るための適切な措置を講じることが義務付けられました。

この記事では、厚生労働省の指針と法改正の要点に基づき、運送会社が対応すべき公的事項について解説します。

法改正の背景と義務化の範囲

これまでカスハラ対策は、2020年施行の同法において「望ましい取組(努力義務)」とされてきましたが、被害の深刻化を受け、2026年より「雇用管理上の義務」へと格上げされることになりました。

対象となるのは、一般消費者(B2C)だけでなく、荷主企業や取引先(B2B)からのハラスメントも含まれます。

    事業主は、従業員が顧客等からの著しい迷惑行為により就業環境が害されることを防ぐため、以下の措置を講じる義務を負います。

    事業主に義務付けられた「雇用管理上の措置」

    厚生労働省の指針では、事業主が講ずべき具体的な措置として以下の3点を挙げています。

      ①相談体制の整備

      従業員がカスハラを受けた、あるいは受ける恐れがある場合に、遅滞なく報告・相談できる窓口を設置しなければなりません。

      運送業においては、ドライバーが現場からリアルタイムで事務所に報告できる連絡体制の整備がこれに該当します。

      ②被害者への救済と再発防止

      相談があった場合、事実関係を迅速に確認し、組織として対応を交代するなどの救済措置を講じることが義務付けられます。

      また、被害を受けた従業員のメンタルヘルスケアや、必要に応じた配置転換などの事後フォローも含まれます。

      ③不利益取扱いの禁止

      カスハラについて相談したことや、事実関係の確認に協力したことを理由として、解雇や減給、降格などの不利益な取扱いを行うことは法律で禁止されます。

      運送業におけるカスハラ

      カスハラは必ずしも新しい概念ではなく、運送業界では「下請けいじめ」や現場のドライバーに対する嫌がらせが以前から問題視されていました。

      2024年問題以降、物流効率化の観点から「荷待ち時間の削減」や「附帯作業の適正化」が強く求められています。

      これらを無視した過度な要求や現場での暴言は、カスハラとみなされる可能性が高まっています。

      また、国土交通省が定める運送約款では、公序良俗に反する行為や、運送の継続が困難な事由がある場合には、運送の引き受けを拒絶できるとされています。

      法改正による義務化は、この約款に基づく「拒絶」の正当性をより強固にするものです。

        事業主は、荷主に対してハラスメント防止に関する自社の方針を周知し、必要に応じて環境改善を申し入れることが、法に則った正当な業務管理の一環となります。

        最後に

        2026年の法改正により、カスハラ対策は「企業の任意」から「法的責務」へと変わります。

        公的な指針に基づき、相談窓口の明確化、組織的な対応手順の策定、そして従業員保護の徹底を推進することが、法的リスクを回避し、持続可能な運送事業を継続するための基盤となります。

          この記事を書いた人

          新潟市出身。上智大学外国語学部卒業、一橋大学法科大学院修了。物流業専門の社会保険労務士。2023年に「いろり社労士事務所」を開設。トラック運送業、観光バス業、倉庫業に特化した支援を行っている。紛争を未然に防ぐ規程作りや労務管理を得意とし、単なる手続き代行に留まらない経営サポートを展開。2024年問題などの業界特有の課題に対し、経営者の良き理解者として現場に即した実務的な解決策を提案している。福岡市在住。

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