事故と虚偽の説明を繰り返すドライバーへの懲戒処分について社労士が助言を行った事例

今回は、過去に何度も事故を起こし、そのたびに虚偽の報告を繰り返してきたドライバーに対し、会社が検討していた「出勤停止14日間」という厳しい処分を、法的な観点から精査し実施した事例をご紹介します。

事故の隠蔽と虚偽報告の常習性

対象となった従業員は、これまでにも配送業務において、車両や荷物の扱いに関するミスを複数回起こしていました。

過去には会社に多額の損失を与える事案も発生していましたが、その際も当初は自身の関与を否定するような、不透明な態度が散見されていました。

会社側はこれまで、粘り強い個別指導や就業規則に基づく処置を行い、改善を促してきましたが、残念ながらその後も同様のトラブルが再発しました。

客観的な状況から、本人の関与が疑いようのない場面であったにもかかわらず、会社が事実確認を行うと、本人は頑なに事実を否定する虚偽の報告を繰り返しました。

最終的には認めましたが、会社側は「単なるミス以上に、これまでの経緯を含めた虚偽報告の常習性は、組織としての規律を著しく乱すものであり、看過できない」として、重い処分を下したいとの強い意向を示されました。

法的見解に基づく処分の妥当性評価

この事案において、弁護士とも連携し、法的な視点から「出勤停止14日間」という処分の相当性を精査しました。

懲戒処分が有効とされるためには、行為の悪質さと処分の重さが釣り合っている必要があります。

本件で処分の正当性を裏付けるポイントとなったのは、以下の3点です。

第一に、ミスの反復性と指導後の再犯です。

直前に個別指導や減給処分を受けていたにもかかわらず、同様のミスを繰り返している点は「改善の意欲がない」と評価される重要な要素となります。

第二に、事故後の不誠実な対応です。 ミスそのものよりも、虚偽の報告によって会社の調査を妨げ、荷主との信頼関係を危うくした「隠蔽体質」が悪質であると判断されました。

第三に、処分の段階性です。

すでに「減給」という処分を経てなお改善が見られないため、一段階重い「出勤停止」を選択することには法的な合理性があります。

今回の事故自体に直接の金銭的損害が出ていなかったとしても、繰り返される虚偽報告が企業秩序に与える悪影響は甚大です。

これらを総合的に考慮し、14日間の出勤停止処分は経営判断として妥当な範囲内であると確認されました。

適正な手続きと通知文の作成

処分の有効性を盤石なものにするため、実施にあたっては適正な手続きを徹底しました。

まず、懲戒処分の鉄則である「弁明の機会」を設け、本人の言い分を直接聴取して記録に残しました。

その上で、処分の根拠となる就業規則の条文や、具体的にどの事実が処分対象となったのか、過去の指導歴も含めて精緻に記載した「懲戒処分通知書」を作成・交付しました。

この手順を慎重に踏んだことで、本人は自身の非を認め、会社としての規律を最後まで守り抜く形での解決となりました。

運送会社の皆様へ

事故が起きた際、ドライバーが「正直に報告できる環境」を作ることは大切ですが、一方で「嘘」を許容してしまえば現場の統制は取れなくなります。

たとえ実損が小さくても、虚偽報告を繰り返す従業員に対しては、過去の指導履歴に基づいた適切な処置をとることが、他の真面目なドライバーを守ることにも繋がります。

「この程度の問題で重い処分ができるのか」「後から訴えられるリスクはないか」と悩まれている経営者の方は少なくありません。

適切な証拠の積み上げと、法的な根拠に基づいた通知文の作成があれば、毅然とした対応は可能です。 現場の規律維持にお困りの際は、ぜひ一度ご相談ください。

この記事を書いた人

新潟市出身。上智大学外国語学部卒業、一橋大学法科大学院修了。物流業専門の社会保険労務士。2023年に「いろり社労士事務所」を開設。トラック運送業、観光バス業、倉庫業に特化した支援を行っている。紛争を未然に防ぐ規程作りや労務管理を得意とし、単なる手続き代行に留まらない経営サポートを展開。2024年問題などの業界特有の課題に対し、経営者の良き理解者として現場に即した実務的な解決策を提案している。福岡市在住。

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