ドライバーが音信不通になったらどうする?
運送業界の経営者や管理者の皆様にとって、頭を悩ませる問題の一つに「ドライバーの音信不通」があります。
昨日まで普通に働いていたドライバーが突然連絡もなしに欠勤し、電話もメールも繋がらない。
このような状況が続くと、社会保険の手続や給与計算、新しい人員の確保など、事務負担は増大するばかりです。
こうした煩わしさを解消する手段として、一部で「14日間無断欠勤が続いた場合は、欠勤初日に退職の申し出があったものとみなす」といった誓約書を入社時に取ったり、就業規則に明記したりする手法が語られることがあります。
しかし、この「退職の擬制(みなし)」という運用には、法的に大きなリスクが隠されています。
退職扱いが「解雇」とみなされる危険性
まず、最も警戒すべきは、会社が一方的に退職として処理したことが、法律上「解雇」と同視されるリスクです。
雇用関係の解消という判断は、労働者の生活に直結する極めて重大なものです。
たとえ事前に入社時の誓約書で同意を得ていたとしても、「無断欠勤という事実をもって退職の意思表示があったものと擬制すること」は、裁判所では無効と判断される可能性が高いと考えられます。
もし労働者側から「辞める意思はなかった」と争われた場合、会社側が行った処理は実質的な解雇と判定されます。
解雇とみなされれば、解雇権の濫用ではないか、あるいは30日前までの解雇予告が必要ではないかといった、より厳しい法的ハードルが課されることになります。
安易な退職処理は、将来的な不当解雇トラブルの火種になりかねないのです。
社会保険の「遡り処理」による実務上の不利益
次に、退職日を「欠勤初日」に遡らせることによる、社会保険上のトラブルです。
労働契約が継続している期間は、たとえ出勤していなくても社会保険の被保険者資格は継続するのが原則です。
これを会社側の都合で初日に遡って喪失させてしまうと、法律関係に矛盾が生じます。
たとえば、欠勤期間中に本人が健康保険証を使って病院を受診していた場合、後から保険給付の差し戻しが発生し、医療機関や保険者から会社に問い合わせが来るなどの混乱を招きます。
また、会社は労働契約が存続している期間に対応する社会保険料の負担義務を負っており、退職日を遡及させる処理はこれらの法律関係と整合性がとれません。
運送会社が取るべき「正攻法」の対応手順
音信不通のドライバーに対しては、事務処理の利便性を優先するのではなく、法的リスクを最小限に抑える「正攻法」で対応することが重要です。
弁護士の見解を踏まえた適切なステップを確認しておきましょう。
まずは、電話や電子メール、SNSなど、記録に残る形で本人への連絡を試みることが第一歩です。
それでも反応がない場合は、緊急連絡先への確認も含め、会社として最大限の確認努力をしたという実績を積み上げます。
その上で、内容証明郵便等を用いて「〇日までに連絡または出勤がない場合は、就業規則に基づき解雇(または自然退職)とする」という最終的な通知を行います。
この場合、退職日は欠勤初日に遡るのではなく、会社が解雇の意思表示を行った日、あるいは解雇予告期間が満了した日となります。
遡及処理は行わず、事実の発生順に沿って手続を進めることが、会社を守る最善の策となります。
手続の整備が現場の混乱を防ぐ
会社が大きくなるほど、一人ひとりの音信不通に対応するのは手間がかかりますが、裁判所はこの点についてかなり厳しく判断します。
リスクのある特約に頼るのではなく、就業規則に「正当な理由のない無断欠勤が〇日以上に及び、督促に応じない場合の取り扱い」を明確に定め、その手順をルーチン化しておくことが、結果として事務負担と法的リスクの両方を軽減することに繋がります。
貴社の就業規則には、このような「もしも」の時の手続が具体的に記載されているでしょうか?
現状の規定に不安がある、あるいは具体的な通知文の書き方を確認したいといった場合は、いつでもお手伝いさせていただきます。
